発達特性を持つ子どもの学習意欲と自己肯定感を高める指導法|4つの共通要素を解説 「発達特性を持つ子どもが、なかなか学習に意欲を示さない」「自信を持てず、すぐに諦めてしまう」——こうした悩みを抱えている教育関係者や保護者の方は少なくありません。 この記事では、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注…
発達障害児の保護者向け|ペアレントプログラム・トレーニング・メンター完全ガイド
- 公開日:2025/11/7
- 最終更新日:
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「子どもへの接し方が分からない」「つい感情的に怒ってしまう」「他の保護者はどう対応しているの?」
発達障害のある子どもを育てる保護者の多くが、こうした悩みを抱えています。でも、安心してください。科学的根拠に基づいた保護者支援プログラムが、全国の自治体で無料または低額で提供されています。
この記事では、厚生労働省が推奨する3つの家族支援プログラム――「ペアレントプログラム」「ペアレントトレーニング」「ペアレントメンター」について、その違い、参加方法、効果を詳しく解説します。
💡 家族支援は「救命胴衣」
発達障害のある子どもを育てることは、荒波の中を泳ぎ続けるような体験です。子どもを支えようと必死に泳ぎ続けるうちに、保護者自身が溺れそうになることがあります。家族支援プログラムは、保護者に救命胴衣を提供するものです。胴衣があれば、浮力を得て呼吸を整え、子どもを支える力を取り戻せます。保護者が安定してこそ、子どもも安心して成長できるのです。
この記事を読めば、あなたに合った支援プログラムの選び方、参加方法がわかります。専門知識は不要です!
注:家族支援の方法は様々です。この記事では厚生労働省が推奨する主要な3つのプログラムに焦点を当てていますが、地域により他の支援もあります。発達障害の基礎知識と合わせて理解することで、より効果的な支援を受けられます。
⚠️ 厚生労働省の方針(2016年通知)
厚生労働省は通知において、「家族支援は発達障害児支援の中核をなす」と明記しています。保護者支援は「おまけ」ではなく、発達障害支援において最優先で取り組むべき課題なのです。
保護者も支援が必要:家族支援の重要性
保護者が抱える困難
発達障害のある子どもを育てる保護者は、日々多くの困難に直面しています。
- 子育ての悩み:一般的な育児書の方法が通用しない、子どもの行動が理解できない
- 社会的孤立:周囲の理解が得られない、相談できる相手がいない
- 心理的負担:自分の育て方が悪いのではないかという罪悪感、将来への不安
- 身体的疲労:睡眠不足、常に気を張っている状態
特に不登校の問題を抱えている場合、保護者の心理的負担はさらに大きくなります。
家族支援の科学的根拠
厚生労働省の研究班による調査では、ペアレントトレーニングを受けた保護者の約80%が「子どもへの対応が改善した」と回答しています(出典:厚生労働省「発達障害児者支援とアセスメントに関するガイドライン」)。
また、保護者のストレス軽減、親子関係の改善、子どもの問題行動の減少など、複数の効果が実証されています。
3つの支援プログラムの全体像
厚生労働省が推奨する家族支援プログラムは、大きく分けて3種類あります。それぞれ目的・対象・内容が異なります。
ペアレントプログラム
目的:保護者の自己肯定感向上
対象:診断前後の保護者、初めて支援を受ける方
期間:5~6回(各90分程度)
形式:グループワーク(5~10人程度)
ペアレントトレーニング
目的:具体的な対応技法習得
対象:より専門的な支援が必要な保護者
期間:10~12回(各90~120分)
形式:グループワーク+宿題・実践
ペアレントメンター
目的:経験の共有、心理的サポート
対象:診断直後の保護者、孤立している保護者
期間:継続的(必要に応じて)
形式:1対1または小グループ
💡 3つのプログラムは「学びのステップ」
3つのプログラムは、学校の授業に例えられます。ペアレントプログラムは「入門講座」、発達障害の基礎を学び、自分と子どもを理解します。ペアレントトレーニングは「専門コース」、具体的なスキルを実践的に学びます。ペアレントメンターは「先輩との対話」、教科書にはない生きた知識と心の支えを得ます。どこから始めても構いませんし、複数を組み合わせることもできます。
プログラム選択のガイド
診断を受けたばかりで何から始めたらいいか分からない
→ ペアレントプログラム または ペアレントメンター
子どもの問題行動への対応方法を具体的に学びたい
→ ペアレントトレーニング
同じ経験を持つ保護者と話したい・孤独感を感じている
→ ペアレントメンター
自分の育て方に自信が持てない
→ ペアレントプログラム
ペアレントプログラム:自己肯定感を育む
ペアレントプログラムとは
ペアレントプログラムは、保護者が子どもの行動を客観的に観察し、その特性を理解することで、保護者自身の自己肯定感を高めるプログラムです。発達障害支援の「入門編」として位置づけられています。
プログラムの特徴
- 短期集中型:全5~6回(各90分程度)で完結
- グループワーク中心:5~10人程度の保護者が参加
- 「叱らない」視点:子どもの良い行動に注目する
- 宿題が少ない:負担が少なく、初めてでも参加しやすい
プログラムの内容(標準的な例)
期待できる効果
- 保護者の自己肯定感向上:「自分も頑張っている」と認められる
- 子どもの良い面の発見:「できないこと」より「できること」に目が向く
- 他の保護者との交流:孤立感の軽減、仲間づくり
- 子育てのストレス軽減:客観的な視点を持つことで冷静になれる
💡 ペアレントプログラムは「メガネの調整」
子どもの行動が理解できない状態は、ピントの合わないメガネをかけているようなものです。すべてがぼやけて見え、何が問題なのか分かりません。ペアレントプログラムは、メガネのピントを調整する作業です。視点を変えることで、子どもの行動がクリアに見え、「なぜそうするのか」が理解できるようになります。
参加方法(公的機関・無料または低額):発達障害者支援センター、児童発達支援事業所、市区町村の保健センター、教育委員会(教育支援センター)
ペアレントトレーニング:行動変容の技法
ペアレントトレーニングとは
ペアレントトレーニング(ペアトレ)は、応用行動分析(ABA)の理論に基づき、子どもの行動を変容させる具体的な技法を学ぶプログラムです。1960年代にアメリカで開発され、世界中で効果が実証されています。
プログラムの特徴
- 長期集中型:全10~12回(各90~120分)
- 実践重視:毎回の宿題があり、家庭で実践する
- 科学的根拠:応用行動分析(ABA)に基づく
- 段階的学習:基礎から応用まで体系的に学ぶ
プログラムの内容(標準的な例)
第1~2回:オリエンテーションと行動観察(ABC分析の方法)
第3~4回:良い行動を増やす(正の強化、褒め方)
第5~6回:好ましくない行動を減らす(消去・無視)
第7~8回:指示の出し方と促し
第9~10回:問題行動への対応(タイムアウト等)
第11~12回:応用と振り返り
ABC分析とは
ペアレントトレーニングの基本となるABC分析について説明します。
- A(Antecedent:先行条件):行動が起こる前の状況
- B(Behavior:行動):実際に起こった行動
- C(Consequence:結果):行動の後に起こったこと
【具体例】
A(先行条件):スーパーのお菓子売り場を通りかかった
B(行動):子どもが「お菓子買って!」と大声で叫んだ
C(結果):保護者が「静かにして」とお菓子を買ってあげた
→ この場合、「大声で叫ぶ」という行動が「お菓子がもらえる」という結果で強化されています。次回も同じ行動が起こりやすくなる可能性があります。
💡 ペアレントトレーニングは「工具箱」
子育ての困難に対応するには、適切な「道具」(技法)が必要です。ペアレントトレーニングは、保護者に充実した工具箱を提供するものです。「褒める」というドライバー、「無視する」というペンチ、「指示を出す」というハンマー――状況に応じて適切な工具を選び、使いこなせるようになります。
期待できる効果(実証済み)
- 子どもの問題行動の減少:かんしゃく、暴言、反抗などが減る可能性がある
- 良い行動の増加:指示に従う、自分でできることが増える可能性がある
- 保護者のストレス軽減:対応方法が分かることで不安が減る
- 親子関係の改善:叱る回数が減り、褒める回数が増える
※効果は個人差があります。厚生労働省研究班の調査に基づく。
参加方法(公的機関・無料または低額):発達障害者支援センター、児童相談所、保健センター・子育て支援センター、一部の医療機関
⚠️ 民間のペアレントトレーニング(有料)について
一部の民間事業者も有料でペアレントトレーニングを提供しています(費用は数万円~十数万円、事業者公表値)。民間サービスを利用する場合は、実施者の資格(公認心理師、臨床心理士、行動分析士等)、プログラムの内容、費用を事前に確認してください。まずは公的機関の無料プログラムを試すことをおすすめします。
ペアレントメンター:経験者による伴走支援
ペアレントメンターとは
ペアレントメンターは、発達障害のある子どもを育てた経験を持つ保護者が、専門的な研修を受けた上で、同じ立場の保護者に寄り添い、相談に乗る活動です。「先輩保護者」による「経験の共有」が中心です。
ペアレントメンターの特徴
- 経験者だからこその共感:専門家とは異なる「当事者の視点」
- 継続的な関係:必要に応じて何度でも相談できる
- 1対1または小グループ:個別の状況に応じた対話
- 無料:多くの自治体で無料で利用できる
メンターができること・できないこと
【メンターができること】
- 話を聴く:不安、悩み、迷いを受け止める
- 経験を共有する:「私もそうだった」という共感
- 情報提供:利用した支援機関、学校選びの経験など
- 心の支え:「大丈夫、あなたは一人じゃない」というメッセージ
【メンターができないこと】
- 診断や治療:医療行為はできません
- 専門的な指導:ペアレントトレーニングのような技法指導は専門家の役割
- 代行:学校への連絡、手続きの代行などはできません
💡 ペアレントメンターは「登山の先輩」
発達障害のある子どもを育てることは、険しい山を登るような体験です。ガイドブック(専門書)や登山ガイド(専門家)も役立ちますが、実際にその山を登った先輩の話は特別な価値があります。「あの岩場は滑りやすい」「あの分岐点では右に進んで」――経験者だけが知る生きた情報と、「あなたも登れる」という励ましが、ペアレントメンターの力です。
ペアレントメンターの活動形態
- 個別相談:1対1で対話(対面・電話・オンライン)
- グループ相談:複数の保護者と話す座談会形式
- 同行支援:支援機関への初回訪問に同行(一部地域)
- 啓発活動:講演会、保護者会での体験談発表
相談方法(公的機関・無料):発達障害者支援センター、都道府県・市区町村の発達障害支援窓口、親の会・保護者団体
プログラムの選び方と参加方法
状況別おすすめプログラム
診断直後で情報が欲しい
→ ペアレントプログラム + ペアレントメンター
まずは基本的な知識と心の支えを得ることが優先です。
子どもの問題行動が深刻
→ ペアレントトレーニング
具体的な対応技法を体系的に学ぶ必要がある場合に適しています。
孤立感が強い・話し相手がいない
→ ペアレントメンター
経験者との対話で心理的な支えを得ることが最優先です。
時間に余裕がない
→ ペアレントメンター(個別相談)
柔軟なスケジュールで相談できます。オンライン学習と同様に、自宅から参加できる場合もあります。
参加までのステップ
参加のポイント
- 完璧を目指さない:できる範囲で取り組めばOK
- 他の保護者と比較しない:それぞれの家庭に合ったペースで
- 質問を遠慮しない:分からないことはその場で聞く
- 配偶者・家族と共有:可能であれば家族で参加、または学んだことを共有
- 自分も大切に:保護者自身の休息も重要です
家族支援を受けられる公的機関
全国共通の公的支援窓口(無料)
【発達障害者支援センター】
- 設置:都道府県・指定都市(全国約90箇所)
- サービス:相談支援、ペアレントプログラム・トレーニング実施
- 対象:発達障害児者とその家族(診断の有無は問わない場合が多い)
- 費用:無料
【児童発達支援事業所・放課後等デイサービス】
- 設置:全国約18,000箇所(令和4年度、厚生労働省)
- サービス:子どもへの療育、保護者支援プログラム
- 対象:受給者証を持つ発達障害児とその家族
- 費用:所得に応じた自己負担(上限4,600円/月または無料)
【市区町村の保健センター・子育て支援センター】
- 設置:各市区町村
- サービス:育児相談、ペアレントプログラム実施(自治体により異なる)
- 対象:乳幼児~就学前の子どもと保護者
- 費用:無料
💡 公的機関は「総合病院の各科」
公的支援機関は、総合病院の各診療科に例えられます。発達障害者支援センターは「総合診療科」、まずはここで相談し、適切な「科」(機関)を紹介してもらえます。児童発達支援は「リハビリ科」、教育支援センターは「学校保健室」。それぞれ専門分野がありますが、連携して支援します。どこに相談すべきか迷ったら、まずは発達障害者支援センターへ。
家族全体を支える:きょうだい支援
きょうだい児が抱える困難
発達障害のある子どものきょうだい(兄弟姉妹)も、独特の困難を抱えています。
- 保護者の注意が偏る:発達障害のある子に時間・エネルギーが注がれる
- 我慢を強いられる:「お兄ちゃん/お姉ちゃんだから」と我慢させられる
- 友だちに説明できない:きょうだいの行動を理解してもらえない
- 将来への不安:「自分が面倒を見なければならないのか」という重圧
きょうだい支援の取り組み
【公的機関によるきょうだい支援】
- きょうだいの会(発達障害者支援センターや親の会が主催する交流会)
- カウンセリング(児童相談所、スクールカウンセラーによる個別相談)
- ペアレントプログラムの「きょうだい版」(一部の自治体で実施)
【家庭でできるきょうだい支援】
- 個別の時間を確保(きょうだいだけと過ごす時間を意識的に作る)
- 気持ちを聴く(不満や寂しさも受け止める)
- 年齢に応じた説明(発達障害について、理解できる言葉で説明)
- 役割を押し付けない(「将来の面倒を見る」ことを前提としない)
きょうだい支援は、「おまけ」ではなく、家族支援の重要な柱です。きょうだいが心身ともに健康に育つことは、家族全体の安定につながります。
よくある質問(FAQ)
診断を受けていなくても参加できますか?
はい、多くのプログラムは診断の有無を問いません。「発達が気になる」「育てにくさを感じる」という段階でも相談・参加できる場合があります。まずは実施機関に問い合わせてください。
父親も参加できますか?
はい、大歓迎です。近年、父親の参加が増えています。土日に実施するプログラムや、父親専用のプログラムもあります。両親で参加することで、家庭での実践がより効果的になる可能性があります。
途中で参加できなくなった回はどうなりますか?
多くのプログラムでは、欠席した回の資料提供や、個別補講がある場合があります。ただし、連続して欠席すると効果が薄れる可能性があるため、できるだけ継続参加してください。やむを得ない場合は、事前に事務局に相談してください。
プログラムに参加すれば、子どもの問題行動はすぐに改善しますか?
即効性を期待するのは難しい場合が多いです。ペアレントトレーニングの効果は、通常数週間~数ヶ月かけて徐々に現れることが多いとされています。焦らず、小さな変化を喜びながら継続することが大切です。効果が感じられない場合は、医療機関や専門家に相談してください。
他の保護者の前で自分の悩みを話すのが恥ずかしいです
最初は誰でも緊張するものです。しかし、参加者は皆、同じような悩みを抱えています。プログラムでは守秘義務が徹底されており、話した内容が外部に漏れることはありません。少しずつ慣れていけば大丈夫です。どうしても難しい場合は、個別相談やペアレントメンターを利用してください。
プログラム修了後も継続的に支援を受けられますか?
はい。多くの機関では、修了後のフォローアップ面談、卒業生の会、親の会への紹介などがあります。プログラムは「卒業したら終わり」ではなく、支援のネットワークにつながる入口です。継続的な関係を築いてください。フリースクールやハローワークの専門支援など、年齢に応じた支援機関への橋渡しもあります。
まとめ:一人で抱え込まないで
発達障害のある子どもを育てることは、決して簡単ではありません。しかし、あなたは一人ではありません。この記事では、家族支援プログラムについて解説しました:
- 厚生労働省推奨の3つのプログラム:ペアレントプログラム、ペアレントトレーニング、ペアレントメンター
それぞれ目的・対象・内容が異なり、自分に合ったプログラムを選べます。
- ペアレントプログラム:保護者の自己肯定感向上、短期集中型(5~6回)
発達障害支援の「入門編」として最適です。
- ペアレントトレーニング:具体的な対応技法習得、長期集中型(10~12回)
約80%が「対応が改善した」と回答(厚生労働省研究)。
- ペアレントメンター:経験者による心理的サポート、継続的な関係
「先輩保護者」の生きた知識と励ましが得られます。
- 公的機関で無料または低額:発達障害者支援センター、児童発達支援事業所など
全国の自治体で利用できます。
- きょうだい支援も重要:家族全体を支える視点
きょうだいの心の健康も、家族支援の重要な柱です。
「こんなことで相談していいのかな」と躊躇する必要はありません。保護者が元気でいることが、子どもにとって最大の支援です。
まずは、お住まいの地域の発達障害者支援センターに連絡してみてください。あなたと家族を支える仲間が、そこにいます。子育ては、マラソンです。時には立ち止まり、給水所(支援機関)で休息し、仲間(他の保護者)と励まし合いながら、自分のペースで進んでいきましょう。発達障害・不登校支援の完全ガイドでは、教育から就労まで一貫した支援の流れを詳しく解説しています。

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