
思いやりの心が循環する、温かい絵本
うさぎさんが作った小さな椅子に「どうぞのいす」という看板を立てたことから始まる、心温まる物語。次々と訪れる動物たちが、前の動物が置いていったものを「全部食べちゃ悪いから」と自分の持ち物に入れ替えていく様子が、子どもたちに思いやりの連鎖と優しさの循環を自然に伝えてくれます。
1981年の出版以来、40年以上にわたって愛され続けているこの絵本は、小学校低学年のお子さんに「人を思いやる気持ち」や「感謝の心」を育む最適な教材です。シンプルながら深いメッセージが込められた物語は、読み聞かせを通じて、お子さんの心に優しさの種を蒔いてくれるでしょう。
物語の流れと「優しさのリレー」
この絵本の最大の魅力は、動物たちによる「優しさのリレー」です。それぞれの動物が次の誰かを思いやる行動が、美しい連鎖を生み出します。
椅子と看板を作る
うさぎさんが心を込めて椅子を作り、「どうぞのいす」という看板を立てます。この最初の優しさが、すべての始まりです。
どんぐりを置いて休憩
疲れたろばさんがどんぐりの入ったかごを椅子に置いて、木の下で眠ります。「どうぞ」の言葉を信じて、安心して休める場所を見つけました。
はちみつに入れ替え
通りかかったくまさんがどんぐりを見つけて食べてしまいますが、「全部食べちゃ悪いから」と自分のはちみつのつぼを置いていきます。
パンに入れ替え
きつねさんもはちみつを食べて、代わりにパンを置いていきます。「次の人のために」という思いやりが受け継がれていきます。
くりに入れ替え
りすさんがパンを食べて、くりを置きます。それぞれが「自分にできる優しさ」を実践する姿が描かれます。
嬉しい驚き
目を覚ましたろばさんは、どんぐりがくりに変わっているのを見て驚きます。優しさの循環が完成し、みんなが幸せになる結末を迎えます。
この絵本で育つ「5つの心の力」
「どうぞのいす」は、お子さんの心に大切な5つの力を育んでくれます。それぞれの効果と、日常生活での具体的な成長の例をご紹介します。
1. 思いやりの心
動物たちが「全部食べちゃ悪いから」と考える場面を通じて、相手の立場に立って考える力が自然に育ちます。「次に来る誰か」を想像する習慣は、お子さんの共感力を高めてくれます。
- おやつを家族に「どうぞ」と分けられるようになる
- 友達が使いたいおもちゃを「どうぞ」と譲れる
- 困っている友達に「手伝おうか?」と声をかけられる
2. 感謝の気持ち
ろばさんが目覚めた時の驚きと喜びの場面から、「ありがとう」の気持ちの大切さを学びます。誰かの優しさに気づき、感謝できる心は、人間関係の基盤となります。
- 「ありがとう」を自然に言えるようになる
- 家族の小さな優しさに気づけるようになる
- 手紙や絵で感謝を表現できるようになる
3. 想像力の育成
「次に来る人は誰かな?」「何を置いていくかな?」と予想しながら読むことで、想像力と推測する力が鍛えられます。物語の展開を予測する楽しさは、読書への興味を深めます。
- 「もし〜だったら」と想像して話せるようになる
- 物語の続きを自分で考えて楽しめる
- 相手の気持ちを想像して行動できるようになる
4. 心の好循環体験
一つの優しさが次々と広がっていく様子から、「良いことは巡り巡って返ってくる」という人生の大切な教訓を学びます。善意の連鎖を目の当たりにすることで、積極的に優しくしたいという気持ちが芽生えます。
- 親切にされたら、別の誰かに親切にしようと思える
- 「優しさの貯金」という考え方を理解できる
- 周りの人と良い関係を作ろうとする姿勢が育つ
5. 「待つ」ことの学び
ろばさんが眠っている間に物語が進む構成から、すぐには結果が見えなくても、良いことは起こるという辛抱強さを学びます。待つことの大切さは、現代の子どもたちに特に必要な力です。
- 順番を待てるようになる
- すぐに結果を求めず、過程を楽しめるようになる
- 「あとで」「明日」を理解して行動できるようになる
効果的な読み聞かせ「5つのポイント」
お子さんの心に深く響く読み聞かせをするための、実践的なポイントをご紹介します。
動物ごとに声色を変える
くまさんは低い声、りすさんは高い声など、キャラクターごとに声を変えると、お子さんの集中力が高まります。演じることで物語がより生き生きとして、登場人物への感情移入が深まります。
「次は何かな?」と問いかける
各動物が登場するたびに、「次はどんな動物が来るかな?」「何を置いていくと思う?」と問いかけることで、お子さんの想像力を刺激します。答えを急がず、じっくり考える時間を与えましょう。
「どうして?」を一緒に考える
動物たちが食べ物を交換する場面で、「どうして自分の物を置いていったのかな?」と質問してみましょう。思いやりの理由を言語化することで、道徳的な思考力が育ちます。
表情豊かに読む
ろばさんが驚く場面では大きな表情で、動物たちが優しくする場面では温かい表情で読むことで、感情表現の豊かさをお子さんに伝えられます。表情は言葉以上に多くを語ります。
読後に「自分ならどうする?」を話し合う
読み終わった後、「もし自分が動物だったら、何を置いていく?」と聞いてみましょう。架空の状況で考えることで、実際の行動につながる思考の練習になります。
読んだ後が楽しい!「4つの遊びアイデア」
絵本の世界を日常に拡張する遊びで、学びを定着させましょう。
「どうぞ」ごっこ遊び
おもちゃやお菓子を使って、絵本と同じように「どうぞのリレー」を再現してみましょう。ぬいぐるみを動物に見立てて、順番に物を交換していく遊びです。
- 小さな椅子(または箱)を用意して「どうぞのいす」にする
- お子さんと保護者で動物役を決める
- 順番に物を置いて、入れ替えていく
- 「全部食べちゃ悪いから」のセリフも言ってみる
「ありがとうカード」作り
家族や友達に感謝を伝える「ありがとうカード」を作ってみましょう。絵本のように、優しさを形にして伝える練習になります。
- 画用紙や折り紙でカードを作る
- 「ありがとう」の気持ちを絵や文字で表現する
- 誰に渡すか、何に感謝するかを一緒に考える
- 直接手渡しして「ありがとう」を言う
続きのお話を創作する
「その後、また違う動物が来たらどうなるかな?」と、物語の続きを一緒に考えてみましょう。想像力と創造力を大きく伸ばせます。
- 「次に来るのはどんな動物?」と質問する
- 「その動物は何を持っている?」を想像する
- 「何を置いていく?」を考える
- 絵に描いたり、紙芝居にしても楽しい
家族で「優しさ日記」
毎日、誰かにしてもらった優しいことや、自分がした優しいことをノートに記録してみましょう。優しさの循環を実感できます。
- 専用のノートを用意する
- 毎晩寝る前に、その日の優しいことを1つ話す
- 保護者の方が代筆してあげる(小さい子の場合)
- 週末に一緒に読み返して、振り返る
保護者の方へ:日常で実践できる「思いやり育成法」
「どうぞのいす」の教えを日常生活に活かすための、具体的なサポート方法をご紹介します。無理なく続けられる方法で、お子さんの思いやりの心を育てていきましょう。
家庭内での実践
- 「どうぞ」の声かけ: 食事やおやつの時に「パパにどうぞしてあげて」と促す
- お手伝いを褒める: 「〇〇してくれてありがとう!助かったよ」と具体的に感謝を伝える
- 家族会議: 週に一度、お互いに感謝したことを伝え合う時間を作る
- モデルを示す: 保護者自身が「どうぞ」「ありがとう」を頻繁に使う姿を見せる
友達関係でのサポート
- 共有の練習: 遊びに来た友達におもちゃを「どうぞ」できたら大げさに褒める
- 順番の大切さ: 「次は〇〇ちゃんの番だね」と順番を守る習慣をつける
- 仲裁の仕方: ケンカの時は「どうしたら二人とも嬉しいかな?」と考えさせる
- 良い行動の言語化: 友達に優しくできた時「絵本の動物さんみたいだったね」と結びつける
褒め方のコツ
- 具体的に褒める: 「優しいね」ではなく「妹におもちゃを貸してあげて優しいね」
- 努力を認める: 結果だけでなく「〜しようとしたこと」を褒める
- 感情を共有: 「ママも嬉しい気持ちになったよ」と保護者の気持ちも伝える
- 第三者に伝える: お子さんの前で「今日〇〇が優しいことしてくれたんだよ」とパパなどに話す
注意すべきポイント
- 無理強いしない: 「どうぞしなさい」と強制すると逆効果。自発的な行動を待つ
- 比較しない: 「〇〇ちゃんはできるのに」は禁物。個々のペースを尊重する
- 完璧を求めない: できない日があっても責めず、できた日を大いに喜ぶ
- 見返りを期待させない: 「優しくしたら良いことあるよ」ではなく、行動自体の価値を教える
重要なポイント
思いやりの心は一朝一夕には育ちません。絵本の読み聞かせと日常での実践を繰り返すことで、少しずつお子さんの中に根付いていきます。焦らず、お子さんのペースを大切にしながら、「できた!」という小さな成功体験を積み重ねていくことが最も効果的です。
また、保護者の方自身が楽しみながら実践することも大切です。無理なく続けられる方法を見つけて、家族みんなで優しさの循環を作っていきましょう。
年齢別の楽しみ方ガイド
お子さんの発達段階に合わせた、最適な読み聞かせ方法と期待できる効果をご紹介します。
繰り返しのリズムを楽しむ時期
この年齢の特徴
物語の内容よりも、繰り返しのパターンやリズムに興味を持ちます。「また来た!」という予測可能な展開を喜びます。
おすすめアプローチ
- 動物が登場するたびに「また誰か来たね!」と盛り上げる
- 「どうぞのいす」というフレーズを一緒に言ってもらう
- 絵をじっくり見せて、動物の名前を確認する
- 短い時間でも毎日読んで、パターンを覚えさせる
期待できる効果
言葉のリズム感、記憶力、予測する楽しさを学びます。「どうぞ」という言葉の意味を感覚的に理解し始めます。
感情移入が深まる時期
この年齢の特徴
登場人物の気持ちを理解し、「どうして?」という疑問を持ち始めます。動物たちの優しさの理由を考えられるようになります。
おすすめアプローチ
- 「くまさんはどんな気持ちかな?」と感情を言語化させる
- 「どうして自分の物を置いていったと思う?」と理由を考えさせる
- ろばさんが驚く場面で「びっくりしたね!」と共感する
- 日常生活と結びつけて「〇〇ちゃんも似たことしたね」と振り返る
期待できる効果
共感力、推測する力、因果関係の理解が育ちます。「優しくすると嬉しい」という感情の結びつきを学びます。
深い理解と応用ができる時期
この年齢の特徴
物語のテーマやメッセージを理解でき、自分の経験と結びつけて考えられます。「心の好循環」という抽象的な概念も理解し始めます。
おすすめアプローチ
- 「この絵本から何を学んだ?」と総合的な感想を聞く
- 「もし自分が動物だったら」という仮定の話をする
- 実際の学校生活で似た経験がないか話し合う
- 「優しさが巡る」という概念を説明し、実例を探す
期待できる効果
抽象的思考力、道徳的判断力、行動への応用力が育ちます。読んだ内容を実生活で実践できるようになります。
書籍情報

まとめ:「どうぞのいす」で育む、一生の宝物
「どうぞのいす」は、シンプルな物語の中に人生で最も大切な教えが詰まった絵本です。動物たちが示す思いやりの連鎖は、お子さんの心に「優しさの種」を蒔き、やがて大きな木へと成長していきます。
この絵本がお子さんに届けるもの
- 思いやりの心: 「次の人」を考える習慣が、共感力の基礎となります
- 感謝の気持ち: 誰かの優しさに気づき、「ありがとう」を言えるようになります
- 想像力: 「もし〜だったら」と考える力が、問題解決能力につながります
- 心の好循環: 良いことは巡ってくるという、人生の大切な真実を学びます
- 辛抱強さ: すぐに結果を求めず、待つことの大切さを理解します
保護者の方ができること
絵本を読むだけでなく、日常生活での実践が何より大切です。お子さんが「どうぞ」と言えた時、友達におもちゃを貸せた時、家族に優しくできた時—そんな小さな瞬間を見逃さず、大いに褒めてあげてください。
また、保護者の方自身が「どうぞ」「ありがとう」を日常的に使う姿を見せることも、最高の教育になります。子どもは親の言葉よりも行動を真似るものです。
長期的な視点で
思いやりの心は一日では育ちません。でも、毎日少しずつ、絵本の読み聞かせと日常での実践を繰り返すことで、確実にお子さんの中に根付いていきます。焦らず、お子さんのペースを尊重しながら、温かく見守ってあげてください。
「どうぞのいす」で学んだ優しさは、お子さんが大人になってからも、人間関係の基盤として一生の宝物となるはずです。今日から、家族みんなで「優しさの循環」を始めてみませんか?
免責事項
本記事で紹介している教育効果や成長例は、一般的な傾向を示すものであり、すべてのお子さんに同じ効果が現れることを保証するものではありません。お子さんの発達には個人差があり、成長のペースや興味の方向性はそれぞれ異なります。焦らず、お子さんの個性を尊重しながら、楽しく絵本と向き合っていただければ幸いです。また、本記事の内容は専門的な教育指導や心理カウンセリングに代わるものではありません。お子さんの発達について心配なことがある場合は、専門家にご相談ください。






